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鈴木社会保険労務士事務所
〒212-0011 神奈川県川崎市幸区幸町2-681-24(JR川崎駅徒歩7分・京急川崎駅徒歩6分)
「固定残業代」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは通常の残業代とは異なる別の残業代というわけではなく、
いわば残業代の支払方法の一種といっても良いかもしれません。
「定額残業代」「みなし残業代」などと言われたりもします。
固定残業代制度については、
「管理が楽になる」といったイメージから導入を検討される企業も多く見られます。
一方で、制度の設計や運用を誤ると、
未払い残業代の問題やトラブルにつながるケースも少なくありません。
実際に、「固定残業代を導入しているつもりだったが、制度として認められない形になっていた」
という状況もよく目にします。
固定残業代は、適切に設計・運用すれば有効に機能する制度ですが、
単に「一定額を含めて支払う」というだけでは成立しない点に注意が必要です。
本記事では、固定残業代を採用するかどうかを検討する際に押さえておきたい基本的な考え方と、
設計上のポイント、注意すべきリスクについて整理します。
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月定額で給与として支払う制度です。
たとえば
「月20時間分の残業代を含む」
「●●手当は月30時間分の残業代として支払う」
といった形で設定されることが一般的です。
この制度自体は法律で禁止されているものではなく、適切に設計・運用されていれば有効な制度として認められています。
ただし、一定の要件を満たした形で設計・運用をしていないと、
会社側としては固定残業代を含んで支払ってきたと考えていても、
それが固定残業代として認められないリスクも持ち合わせています。
その設計にあたっては、就業規則や雇用契約書(労働条件通知書)、給与明細書がカギとなる一方で、
毎月の給与計算時の運用方法が大切となってきます。
固定残業代は、すべての企業に適した制度というわけではありません。
ただし、私は以下の条件にすべて当てはまるなら、原則として採用したほうが良いと考えています。
①全社員、同じ一定時間数を設定できる
②最低賃金との関係で、見込んだ時間数分の月給を全社員に支給できる
③一定時間数を見込んだ年間賃金コストを明確にしておきたい
④制度設計と運用をしっかり行っていく気持ちがある
⑤固定残業代制度を取り入れていることを求人募集で明示することに抵抗がない
理由としては、残業代は大きなコスト要素ですから、
それを一定時間まで想定した賃金原資が事前に見える化できるのは、
経営の安定につながるからです。
また、設定する時間にもよりますが、
固定残業代に含む残業時間数がその会社における標準的な残業時間数であるならば、
それを超える残業を行う従業員に対し、超過する理由の申告を求めることができ、
本当に必要な残業なのかを把握することができるからです。
これらの条件にすべて当てはまらなくても、
導入すること自体がダメというわけではありません。
その場合、固定残業代制度のメリットとリスクの両方を踏まえて判断する必要があります。
端的に言えば、
メリットは「一定時間まで残業代が含まれている安心感」であり、
デメリットは「制度設計と運用に難があると、全否認されるリスクがある」ことです。
固定残業代は「管理が楽になる制度」と捉えられることもありますが、
実際には設計・運用の精度が求められる制度です。
以下でそれらについて解説をしていきます。
固定残業代を有効に機能させるためには、以下の点を明確にしておく必要があります。
●基本給との明確な分離
固定残業代部分と基本給が明確に区分されていることが必要です。
内訳が不明確な場合、制度として認められない可能性があります。
「基本給の中に月20時間分の残業代を含む」
というような形は避け、
「固定残業手当は月20時間分の残業代として支払う」
のように基本給とは「分離」した形にすることがポイントです。
●何時間分かの明示
固定残業代が「何時間分の残業として支払うものなのか」を明確にする必要があります。
それを就業規則や雇用契約書等に明確に記しておき、
「労働者側が何時間分の残業代なのか」が分かるようにしておくことが重要です。
月何時間分とするかは会社側の設計次第です。
10時間、15時間、20時間、30時間、40時間、45時間など
実際に運用されているのは各社様々です。
ここで注意したいのは、あまりにも多すぎる時間数(例えば70時間とか80時間)だと、
固定残業代制度自体が否認されてしまうリスクがあります。
否認されてしまうと、最悪の場合「1円も残業代を払っていない」と認定されてしまうこともあるためかなり危険です。
感覚的には月45時間を上限として考えておくと良いかと思います。
●就業規則・雇用契約書・給与明細書との整合性
まずは、就業規則(給与規程)に固定残業代についての記載をしておくのが必須です。
できれば「月●時間分」も明記したいところですが、
部署ごとや個人ごとに異なる場合は、
少なくとも「含まれる時間数については雇用契約書で個別に明示する」というような記載を入れておくべきでしょう。
そして、「実際の残業が月●時間を超えたら、その差額を別途支払う」ということも記載しておきます。
次に、雇用契約書(労働条件通知書)にも固定残業代のことを明記します。
雇用契約書では賃金に関する明示は必須事項となりますが、
固定残業代の名称(手当名)や含まれる時間数も、就業規則の内容とリンクさせるようにします。
最後に、給与明細書への記載も確認しておきましょう。
就業規則や雇用契約書に書いてある固定残業代の名称と同じになっているかがポイントです。
書類上の記載と実際の運用が一致していない場合、トラブルの原因になります。
固定残業代を有効に機能させるためには、前述の通り制度設計をしっかり行うことは大前提です。
それに加えて、運用面もしっかりと管理していく必要があります。
●超過分の支払いを毎月行う
固定残業代は、原則として含まれる残業時間数を予め明示することとなります。
その明示した残業時間を超えた残業が発生した場合は、
都度超過分を計算して支払う必要があります。
これをきちんと毎月行うことが、固定残業代を機能させるための重要なポイントとなります。
賞与のときにまとめて支払うようなことはせず、毎月計算し、精算することが大切です。
この超過分の支払いをしていないと、
最悪の場合、固定残業代として払っているつもりの給与が、
一切残業代として認定してもらえないという事態も想定されます。
●基本給等が昇給したら、固定残業代も変更する
固定残業代は毎月一定時間数の残業代をあらかじめ見込んで固定で支払う制度です。
ということは、残業代の計算基礎となる基本給やその他の手当が改定されたら、
それに合わせて固定残業代の金額も改定する必要があります。
これを忘れてしまうと、
例えば20時間分と見込んでいた固定残業代が、
いつの間にか20時間に満たない金額になってしまっていることになります。
●含まれる時間数に見合った固定残業代とする
これはどういうことかというと、
例えば残業単価が2,000円の場合で20時間分の残業代を見込む場合、
固定残業代は
「2,000円×20時間=40,000円」
に設定しましょうということです。
これを、例えば「固定残業代は10万円」という具合に設定してしまうと、
残業単価からして不釣り合いとなってしまいます。
場合によっては、固定残業代のほうに金額を多くカウントして基本給を減らすことで、
意図的に残業単価を低くしようとしていると疑われかねません。
実務上、固定残業代をめぐるトラブルは少なくありません。
よく見られる例としては、次のようなものがあります。
これらは、前述の制度設計や運用のポイントがしっかり守られていれば
クリアできる課題だと思います。
それ以外にもトラブルになる例はあります。
たとえば、
というようなケースです。
固定残業代制度を取り入れていたとしても、
労働時間の管理と把握は必須です。
そうしないと、超過時間数や深夜労働の把握、
休日労働時間の把握ができないからです。
固定残業代の名称にも気を付けたいところです。
よく「役職手当」や「営業手当」を固定残業代として支払っているケースをお見受けしますが、
役職に応じた責任や職務、営業職という役割に対する手当と混同されがちなので避けたほうがよいでしょう。
固定残業代なのであれば、堂々と
「固定残業代」
「みなし残業手当」
などと、明らかに残業代と分かるような名称にするべきです。
こうした問題パターンに当てはまってしまうと、
場合によっては固定残業代として認められず、
結果として未払い残業代の問題につながる可能性があります。
固定残業代制度は、誤解の多い制度でもあります。
中でも多いのが、
「設定した時間数まで残業をさせられるのでは?」という誤解です。
固定残業代を取り入れていたとしても、
見込まれた一定時間数まで残業をせずに退勤することは問題ありません。
もしこれを、
「せっかく見込んで払っているのだから、その時間までは残業してもらわないと勿体ない」
と感じてしまう経営者がいるのであれば、
そもそも固定残業代制度を使わずに、
実残業時間に応じた残業代を支払う形式にするべきでしょう。
逆に、労働者側が
「固定残業代を取り入れている会社は、毎月その時間数まで最低限残業があるのでは?」
という不安を抱くケースもあります。
特に、求人募集時にも固定残業代の内容を明示する義務が会社にあるため、
誤解を生まないように配慮しなければなりません。
実際に固定残業代に含めた一定時間数まで残業があるなら仕方ありませんが、
そうではなく実態はもっと少ないのであれば、
求人情報の備考欄などを使って
「当社の一般的な残業時間は月●時間です」
「固定残業代は、その見込んだ時間数までの残業を義務付けるものではありません」
などと明記しておくことで、誤解が生じるのを防ぐことができます。
このように固定残業代は、適切に設計・運用すれば有効に機能する制度です。
一方で、設計や運用が不十分な場合には、未払い残業代などのリスクにつながる可能性があります。
どこかで見聞きすることも多いかもしれませんが、
固定残業代制度を安易に採用せず、
また、制度の導入そのものが目的にならないよう、
自社の状況に合わせて慎重に判断することが重要です。
もし、これらの設計や運用が難しいと感じる場合、
社労士にその設計や運用を依頼するということも一つの方法です。
場合によっては、無理に固定残業代を導入せず、
通常の残業計算とするほうが結果的にリスクを抑えられるケースもあります。
鈴木社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士 鈴木達朗
2000年1月社会保険労務士資格取得。大手社労士事務所勤務後2006年3月に独立開業し、これまでのべ320社以上の中小企業を支援。上場企業の顧問社労士を務めるかたわら、従業員数名~数十名の中小企業にも幅広くする。手続き・給与計算・就業規則の整備など実務に即した労務管理を今も現場の最前線で支援。制度の正しさだけでなく、現場で運用できる形を重視した提案が得意。
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