雇用契約書(労働条件通知書)の作成手順

雇用契約書(労働条件通知書)というのは、どんな手順で作成すればよいのでしょうか?このページでは、その作成手順を一つひとつ解説していきます。
なお、無料ダウンロードができる当事務所オリジナルの雇用契約書・労働条件通知書のひな形(テンプレート)と合わせて見ていくとより理解が深まりますので、ぜひご活用ください。

  1. 雇用形態を決める
    正社員としての契約なのか、パート・アルバイトなのか、あるいは契約社員なのかを明記します。会社によって呼び名は異なると思いますので、自社に合わせた雇用形態を明示しましょう。雇用形態は必ずしも書かなければいけないものではありませんが、社内での位置づけも明確にでき、就業規則の適用項目について区別しやすいメリットもあるので、記載することをお勧めします。
     
  2. 契約期間の定めの有無を決める
    有期契約なのか無期契約なのかを明記します。一般的に、正社員は無期契約、契約社員や嘱託社員は有期契約のことが多く、パート・アルバイトに関しては、有期・無期どちらもあり得ます。無期契約の場合も、その開始の日付を忘れずに明記しましょう。有期契約の場合は、「1年」とか「6ヶ月」とかではなく、その開始と終了を必ず日付で明記したいところです。
     
  3. 契約更新について記載する
    有期契約の場合は、その更新の可能性について必ず記載しなければなりません。更新の可能性が全くないなら無しと明記し、更新するかどうかは状況によるような場合は「更新の可能性あり」とします。「更新する」とか「自動更新」としてしまうと必ず更新しなければならないので、労務リスクが高まることとなりますので、基本的にはお勧めしません。
    また、更新の可能性がある場合は、その更新するかどうかの判断基準も明記しなければなりません。経営状況や本人の能力・健康状態など、何を持って判断するかを決めて必ず記載しておきましょう。
     
  4. 契約更新の上限の有無と無期転換権の周知
    有期雇用の場合は、さらに契約更新の上限が有るのか無いのかも明示しなければなりません。「●回まで」「通算●年まで」「●歳まで」など、有期雇用の更新を繰り返したとしてもその上限はいつまでか、というのを決めている会社はこれを記載します。特に上限を定めていないなら、「更新上限無し」と記載します。
    また、有期雇用者が契約更新を繰り返して通算の雇用年数が5年を超えるに至った場合、その5年を超える契約の都度、毎回「あなたはいつでも無期雇用の希望を会社に申し出れば、期間の定めを外し、無期雇用者になれますよ」ということを雇用契約書(労働条件通知書)で伝えなければなりません。この申し出を会社が拒めないというのは、雇用契約法で認められている有期雇用労働者の権利であって、その該当者(通算5年を超える契約に至った人)に契約の都度明示しなければならないとされています。そして、仮に無期雇用になった場合に、賃金などの労働条件が変わるのか変わらないのか、変わるのならどのように変わるのかも、あらかじめ明記しなければなりません。
    このように、契約期間の定めのある雇用契約に関しては、かなり様々な記載をしなければならず、会社側の手間や負担が非常に多くなります。
     
  5. 就業場所について、「雇入れ直後」と「その後の変更範囲」に分けて記載する
    今回雇用契約を締結したら最初にどこで働いてもらうことになるかを記載します。本社なのか●●支店なのか、テレワークの可能性があるなら労働者の自宅などのテレワーク拠点についても併記しておくようにしましょう。その上で、「その後の変更範囲」についても必ず示さなければなりません。例えば全国転勤の可能性があるなら「会社の定める全て場所」としておけば、今後の拠点の追加・廃止等にも対応できることになります。転勤の可能性が全くないなら「雇入れ直後と同じ」と記載し、一部に限定するなら「本社および●●支店のみ」とか「神奈川県内および東京都内の各店舗」などのように、限定的な書き方をします。
     
  6. 業務の内容について、「雇入れ直後」と「その後の変更範囲」に分けて記載する
    今回雇用契約を締結したら最初にどんな業務を担当してもらうのかを記載します。「システム開発及び保守に関する業務」とか「当社サービスに係る営業、企画開発に関する業務」などのように記載します。限定的な書き方にならないよう、最後に「その他関連業務」と付け加えておくと良いかもしれません。
    その上で、「その後の変更範囲」についても必ず示さなければなりません。例えばすべての業務への配置転換の可能性があるなら「会社の定める全ての業務」としておけば、今後の業務の追加・廃止等にも対応できることになります。配置転換の可能性が全くないなら「雇入れ直後と同じ」と記載し、一部に限定するなら「営業事務、総務・経理事務、庶務等事務的業務のみ」などのように、限定的な書き方をします。

    なぜ業務内容や前述の就業場所について、雇入れ直後とその後の変更範囲とに分けて記載をしなければならないのでしょうか?様々な理由がありますが、主要な目的のひとつに、それらが限定的であったり正社員とは違っていたりすることをはっきりさせておくことで、パート・アルバイトなどの非正規労働者の給与体系が正社員とは異なる(各種手当がつかなかったり、給与水準が異なったりなど)ということを正当化するというのがあります。もちろん、給与体系は業務内容や就業場所の内容や変更可能性だけで決まることばかりではありませんが、逆に言うと、これらが正社員とパート・アルバイトとで変わらないとすれば、パート・アルバイトなどの非正規労働者から同一労働同一賃金の観点から待遇差の改善を求められる一因にもなってしまうため、よく考えて労働契約を結ぶようにしましょう。
     
  7. 就業時間を記載する
    その労働者の所定労働時間が何時間なのか、始業・終業時刻を明確にして記載します。雇用形態により労働時間体系は様々あると思いますが、始業・終業時刻のパターンが複数あるのであれば、そのパターンをできれば網羅的に示しておくことをお勧めします(数が多い場合、省略せずに別紙に記載してでも網羅しておくほうが良いです)。シフト制などの場合は、その作成スパン(1ヶ月ごと、2週間ごとなど)と作成のタイミング(毎月●日ごろ)も明記しておきたいところです。とにかく、1日あたりの「時間」だけでなく、「時刻」を明記するのがポイントです。パート・アルバイトなどで時刻の特定が難しい場合は、例えば「10時~23時の時間帯のうち、1日3~6時間程度」という書き方をすることもあります。
    ただ、明記した時刻やシフトで決めた時間は、業務の都合で多少前後したり変更になったりすることもあるため、その可能性にも触れておくことと、時間外労働(残業)の可能性があるのであればその旨も必ず記載しておきましょう。
    労働基準法上の変形労働時間制(1ヶ月変形や1年変形、フレックスタイム制など)を採用している場合は、それに応じた記載をする必要があります。変形労働時間制の採用には、多くの場合就業規則や労使協定での取り決めが必要になるため、それらの整備も合わせて行うようにしてください。
     
  8. 休日を記載する
    曜日で休日が決まっている場合は、その曜日を記載します。土日休みなら、「土曜日・日曜日」という具合です。加えて祝日も休みなら、「土曜日・日曜日・国民の祝日」という記載となります。曜日は決まっていないけど週休2日制でシフトにより決めているという場合は、「週休2日(具体的な休日はシフト表により会社が決定)」などと書いておくと良いでしょう。パート・アルバイトなどで休日日数が週により異なる場合は、「週休●日程度」とか「週休●~●日程度」などという表現をしておきます。
    なお、年末年始や夏季など、もともとは休日ではないけど毎年必ず休みとする期間がある場合は、これを「年末年始休日・夏季休日」として記載します。休日ではなく「年末年始休暇・夏季休暇」と位置付ける場合もあり、その場合は次の「休暇」の欄に記載します。どちらで記載すべきかは、労務に関する複雑な視点が必要となるので、気になる方は社会保険労務士などの専門家に相談してみましょう。
     
  9. 年次有給休暇やその他の休暇を記載する
    休暇に関することも必須の記載事項です。年次有給休暇は正社員だけでなく短時間のパート・アルバイトも対象となりますから、基本的にはどんな雇用形態でも年次有給休暇に関する記載は必要です。付与日数は、週5日以上勤務の場合と週4日以下(かつ、週30時間未満)とで、法定付与日数が異なります。これは「比例付与」というもので、正社員の場合は「6ヶ月継続勤務で10日付与」となるところ、例えば「週4日なら7日」「週3日なら5日」という具合で少ない日数とすることができます。これを適用したい場合は必ず「比例付与日数とする」旨の記載を入れておきましょう。詳しくは、「有休比例付与」でネット検索してみてください。
    合わせて、慶弔休暇や年末年始休暇・夏季休暇などがある場合は、それも記載しておきます。なお、年次有給休暇以外の休暇を有給とするか無給とするかは、会社の自由となります。その辺りにも触れておくようにしましょう。
     
  10. 給与に関する内容を記載する
    基本給、諸手当とに分けて、その労働者に適用される給与の内容・内訳を記載します。定額残業代制(=毎月●時間分までの残業代をあらかじめ月給に含めておく制度)を採る場合は、定額残業代にあたる金額がいくらなのか明確に区分できるような表現をしておきましょう。
    労働基準法上の割増賃金計算をする場合の割増率についても明記します。特に、時間外については、単に「時間外は25%」としてしまうと、1日6時間の短時間労働者が1時間残業した場合、法的には割増せずに時給の支払で済むところ時給の125%で計算してあげなければならないことになるため、「法定労働時間外は25%」という表現を用いることに注意が必要です。
    その他、賃金の締切り・支払い日に関することも記載します。初めての従業員採用となる会社は、この締切り・支払日をいつにするか迷うこともあると思いますが、どのような設定にしろ、締切日から支払日までは少なくとも15日間は空けたほうが良いです(月末締め・翌10日払いとか、15日締め当月25日払い、などは計算上かなり苦労することになります)。
    あとは、昇給・賞与・退職金に関する記載となります。実はこれらは、正社員か短時間労働者・有期雇用労働者かによって、必ず書面で明示しなければならないかどうかが法的に変わってくる項目です。しかし、書面かどうかは別として、定めがあるなら何らかの形での明示が必要になり、労働条件上の重要な関心事項でもあるため、雇用形態に関わらず、労働条件通知書(雇用契約書)に記載するようにしておくことをお勧めします。記載時のポイントとしては、昇給に関しては「必ず●月に昇給する」という表現になっていないかどうか、賞与に関しては「必ず●月に支給する」という表現になっていないかどうか、というところです。昇給しない可能性・賞与支給が無い可能性にも必ず言及しておくようにします。退職金については、有るのか無いのか、有る場合は退職金規程に基づいた内容を記載します。ただし、「支給しないわけではないけど、退職金規程は作っていなくて、頑張った人には払ってあげようかというくらいの感じ」という会社は、「功労により支給することがある」という表現にとどめるのも一つの方法です。
     
  11. 定年や退職手続き・解雇に関する事項を入れる
    定年に関しては、定年年齢とその後の再雇用に関する記載をします。現状、定年は最低でも60歳以上とし、65歳までは何らかの形での再雇用制度を設けておく必要があります。65歳までの再雇用制度は、必ずしもフルタイム・定年前と同条件である必要はありませんが、「会社が認めた人のみ」というのは認められません。定年が65歳以上であれば、再雇用制度は設ける必要はありませんが、「会社が必要と認めた人は70歳まで再雇用することがある」という表現は問題ありません。
    退職手続きについては、「●日以上前までに退職届を提出」というように定めておきます。原則は2週間(14日)となりますが、有期雇用の場合はこれとは異なる取扱いをすることがあります。
    解雇に関する事項は、解雇手続きのほか、解雇事由も含まれる点に注意が必要です。自社の就業規則に書いてある解雇事由と同じものを載せておく必要があります。書ききれない場合でも、参照条文を示したうえで就業規則を明示するなどが必要となります。就業規則の無い会社が厚生労働省のモデル労働条件通知書を利用した場合、具体的な解雇事由を労働条件通知書に記載せずに交付したとすると、最悪「解雇ができない」といった事態になってしまうので注意が必要です。
     
  12. 試用期間を設定する場合の記載
    試用期間を設ける場合は、その期間を記載するようにします。「採用の日から3ヶ月間」「●年●月●日~●年●月●日まで」のように具体的に書いてください。合わせて、その間にどんな項目を査定して本採用可否の判断をするのかも書いておくようにしましょう。
     
  13. 雇用管理の改善等に係る相談窓口
    短時間労働者と有期雇用労働者には、雇用管理の改善等に係る相談窓口について、設置や記載が必要となります(正社員には不要)。担当窓口と連絡先電話番号またはメールアドレス等を決め、それを記載しておきましょう。
    なお、セクハラやパワハラに関する相談窓口の設置については、会社規模に関わらず、また正社員かパート・アルバイトか等の雇用形態に関わらず、法律で義務付けられています。ハラスメント相談窓口は、労働条件通知書(雇用契約書)への記載は絶対ではありませんが、窓口未設置の会社は、労働条件通知書に記載しておくのも一つの方法です。
     
  14. その他
    厚生労働省のモデル労働条件通知書では、社会保険や雇用保険の適用の有無という項目がありますが、これは書面明示義務があるわけではなく、あくまでも「記載するのが望ましい」というものです。
    その他も、労働者に負担させる作業用品、安全衛生に関すること、職業訓練に関すること、災害補償等のこと、制裁(懲戒処分)等に関すること、休職制度に関することなど、「定めがあるのなら、書面明示か口頭などの何らかの形で明示する必要がある」という項目があります。労働契約法でもできる限り書面確認が求められているところですが、書面明示が義務ではないのと、労働条件通知書(雇用契約書)にこれらを落とし込むとボリュームが膨らみ過ぎてしまうといった点も踏まえ、各社で判断の上、記載を検討するようにして下さい。

 


いかがでしたでしょうか。労働条件通知書(雇用契約書)一つを作成するにも、いろいろなことを決めて盛り込んでいかなければならないことがお分かりいただけたかと思います。

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